INSPIRYが雑誌<自販機販売Views>に連載-コード決済の誕生および応用 自販機キャッシュレス化へ(3)

コード決済利用者の視点とオペレーション企業の視点

 経産省キャッシュレス推進室「キャッシュレスの現状及び意義」2021年版では、世界のキャッシュレス決済の現状に触れ、そのキャッシュレス決済比率を見ると、1位韓国94.7%(ほとんどクレカによるもの)・2位中国77.3%(QRコード)・3位カナダ63.0%(クレカ・QRコードなど)とつづき、日本は24.2%とやや出遅れ気味である。政府はこうした実情を踏まえ、2019年頃より市場のキャッシュレス化政策を積極的に進め、2025年に向けてキャッシュレス決済比率4割程度、将来的には80%を目指す「キャッシュレスビジョン」を発表している。

 「自動販売VIEWS」では、全3回シリーズで「自販機キャッシュレス化へ」について、日本のキャッシュレス決済の現状やキャッシュレス大国の中国、活発化する東南アジア諸国のキャッシュレスをレポートしてきたが、最後にキャッシュレス先進国、中国でバーコード決済(QRコード)端末機トップシェアのインスパイリー日本支社、インスパイリージャパン(株)企画部田賀悠記氏に、同社が日本市場で目指す「コード決済と自販機」についての視点を聞いてみた。

開発について語る田賀悠記さん

インスパイリー社が日本の自販機市場参入に至るまでの経緯については

 「日本の自販機チャネルの売上は、無人セルフ販売として世界最大級の規模があります。また、国内の災害時などに自販機内の飲料を無料で提供するフリーベンド機能など、社会インフラの役割も果し、日本の生活の中に自販機はしっかりと根ざしています。現在の中国の自販機普及にも日本の影響があったと思います。

 INSPYRYがなぜ日本の自販機に注目し、研究開発に力を注ぎ、CPM方式の自販機専用端末の開発に踏み切ったかは、中国二次元コード研究の第一人者(中国QRコードシステムの標準制定者)である、弊社王越社長の強い思いです。

 王社長は1999年に技術者として初来日しその後日本で数年を過ごしました。その頃、中国には自販機はまだほとんどなく馴染みもありませんでしたが、日本で生活するといつでもどこでも、適温の飲料を購入できる自販機があちこちにあり。強く魅力を感じました。

 数年後帰国し中国で起業すると、中国国内のコード決済の波もあり事業を伸ばし、拡大をつづけました。そして2018年再び日本に戻り、日本法人として事業を開始。中国でのコード決済事業の成功を収めた主力の端末機が大手外食チェーンで導入されるなど、ともかく成功したかにみえましたがこのあとが続かず、思うような普及に至りませんでした。

 早速、会社では市場調査を始め、調査の中で日本へ初めて来日した時に感銘を受けた日本の自販機に、王社長を始めスタッフも辿りつき、注目しました。お話し致しましたように、2000年代初頭の中国では、ほとんど自販機を見かけることはありませんでしたが、ある日、王社長が上海へ出張した際に日本の大手コンビニ店舗の横に、以前日本で利用したことのある自販機を見かけ、懐かしく親しみを感じ、興味を持ちメーカーを確認してみると富士電機製でした。

 一方、現在の日本の自販機を見ると20年前に来日した時に利用していた自販機と、今の自販機もあまり変わらず、電子マネー決済も一部の自販機には搭載されていましたが、利用者にとって使いやすいとは思えないシステムで、それならば自分たちの経験や技術を生かし、便利で使いやすい、新たな自販機サービスを可能にする端末機の開発へと注力し始めました」。

<コード決済と自販機のつながり>

■利用者の視点

 自販機利用者視点の課題ですが、自販機に設置されている決済端末はMPM方式が主流であり、支払い時に利用者が煩わしさを感じていると思います。MPM方式の場合、コード決済ブランドを選択する必要があります。現金決済の場合では、現金を投入した後で飲料を選択しボタンを押すだけです。しかしMPM方式のコード決済の場合は、①飲料を選択しボタンを押し、②決済端末で決済ブランドを選択し、決済が可能な二次元コードが表示されます。③そこから利用者がスマートフォンで二次元コードを読み取り、④決済ブランドのアプリケーション内で決済操作を行う、これで飲料を手に入れることができます。しかしこの方式では現金決済に比べ決済までの手間が複雑で、『飲みたい時にさっと購入できる』という自販機の便利さを阻害していると考えられます。

 加えて、決済端末上でのブランド選択、コード読み取りといった支払いプロセスを実際に行ってみると、表示画面が小さくスマートフォンの操作に苦労するという懸念も感じます。つまり利用者が決済端末の画面に何かが表示されていることに気付いても、よく見なければその内容を認識できないため、そうした労力をかけようと思わない利用者が多いのではと思います。一部の自販機ではCPM方式の決済端末も見られましたが、操作案内の画面表示が小さく、カメラの位置もわかりにくいため、操作方法がわからずコード決済を躊躇してしまう利用者がいるのではないかと考えられます。もし大きな画面を搭載し決済の方法も見やすく表示され、さらに音声によるガイダンスにもあり、利用者に対して明快にコード決済の方法を案内することができれば、コード決済の利用が、間違いなく普及することが期待されます」。

■自販機オペレーション企業の視点

 「次に、自販機オペレーション企業の課題ですが、普及に躊躇する要因の一つに決済端末機の設置コストにあります。決済端末の設置時に、自販機デバイス窓への決済端末装着・決済端末パーツの組立・ケーブルの取回し・決済端末の各種設定が難しく、保守業者へ依頼する必要があります。何百台、何千台という多数の自販機にかかる、作業を行う手間とコストは非常に大きなものになります。もし自販機オペレーション企業のオペレータ自身が、通常業務の自販機への商品補充作業時などに決済端末の設置を行うことができれば、端末の設置コストも時間も大幅に削減することができます。

 コストという観点では、自販機の販売情報をオンラインで取得し管理することで、オペレーションコストを削減する取組みが行われています。この情報取得には、自販機に通信用機器の設置が必要ですが、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3キャリアは3Gの通信サービスを停止することを決めたため、3G対応の通信用機器の更新が必須となり、このため通信用機器の更新をしなくてはならず、決済用端末の導入にまで投資する余裕がなく、このことがコード決済端末の導入を遅らせる一因となっていると考えられます。また、この自販機の販売情報の管理システムは、大手企業では自社で導入が進められていますが、中小企業では、そもそも導入が進んでいないケースも見られました。そのため、決済端末の導入と同時に、自販機の販売情報をオンラインで収集すること、さらに管理システムの導入までできれば、これらの課題を一気に解決することにもなり、コード決済の導入が普及すると考えました」。

 「さらに、日本で先行している電子マネー(交通系、nanaco、WAON、Edyなど)もコード決済の普及に影響を及ぼしていると感じます。電子マネーのメリットは、現金同様の使い勝手とレスポンスの良さで自販機での商品購入ができます。

 自販機のコード決済端末で電子マネー同様の使い勝手が提供できること。自販機のオンライン化ができること。簡単に取り付け作業ができること。これらを実現するため、多くの技術者と時間を費やしPPS7700の製品開発に取組みました。長年蓄積したCPM方式の決済端末開発経験を土台に、スタンフォード大学工学部人間工学専攻の博士がリーダーとなり、画期的で、驚くほどスピーディーな決済処理を実現しました。さらに、自販機のオンライン化、リアルタイムでの売上確認、「777」ルーレットゲームなどオペレータ企業と利用者にとって便利な機能を完備しました。

 これらの機能が最大限に利用され、日本の街角の自動販売機でのコード決済の普及、運用コストの削減、DXの実現と消費者の支払い体験を再定義しワクワクできるものへと昇華させることは開発者の夢実現にもなります。

 このような革新的な技術により、利用者の利便性向上、自販機オペレーション企業の経営への貢献、ひいては日本におけるキャッシュレス化推進に繋がることを願っています」。